龍田比古の奥山日記

愛する人を追い、斑鳩、三郷、平群、生駒、安堵…龍田川流域など大和を歩いている。気持ちのいい石室によこたわるかとおもえば、万葉のイリュージョンに垣間見たり、十一面観世音が暗号を呟く。…生駒郡という現代の地名を旧平群郡と読み替えると、いろいろなことが見えてきました。

新蕎麦と而今の会@マンボウ

「日本酒の勉強」こんな楽しい勉強はない。
このたび初めて「新蕎麦と而今の会」に連れて行ってもらった。会場のお好み焼き店「マンボウ」は近鉄日本橋を降りてすぐ、堺筋を南へ1、2分の東側、赤いテントの看板が目印。店内は4人がけの鉄板テーブルが6台の大きさ。先輩のご指導で肴持参ということだったので、大通りに平行して南北に続く黒門市場で先輩がかまぼこを買ったので、同じ店でてんぷらを7種類ほどぶら下げて参加した。
入ると各テーブルには女性が既に多数座り、中央の二台接続したテーブルに着いた。右は和服の女性、いかにも日本酒の勉強にふさわしい空気を作る。まずはマンボウのご主人(主催者)に参加費3,000円を払い天麩羅を切って頂いた。

日本酒の勉強会に女性が多い!?これはここでは不思議ではないらしい。そういえば奈良町の元ささや「なら泉勇齋」でも女性が半数は来ている。近鉄奈良の豊祝や大和西大寺駅ナカ豊祝や大阪難波駅ナカ豊祝でも女性は少なくない。どちらも利き酒セットなどがあり、お酒の勉強の雰囲気があるが、どっぷり酔いに行く場所じゃない。なるほど、ここと共通している。ただここは女性のほうが多い。

持ち寄りの当てを分け合ったり、たとえば牡蠣のオイル漬けを全テーブルに回す調理人も参加されていて、おいしい思いで幸福になりました。そのレシピのペーパーを女も男も取り合いしたり、なかなか和やかないい雰囲気でありました。頂いた奈良野菜のサラダがうまかった。前の女性は豆腐パックとあらかじめ切り刻んだ葱や摩り下ろした土生姜を持参、この細やかな配慮にはさすがと感心。

ところで「而今」(じこん)という酒については知らなかったが、何でもすごい人気で手に入れられないらしい。予備知識や過大な思い入れがないだけに自由に味わえると思うと嬉しかった。ただ、主催者に対してはおおきにとお礼を言いたい。

私は酒に対して旨い美味いというが、まずいと思ったことはほとんどない。(ただし、製造から2、3年経った日本酒を頂いたとき、全く旨くないと感じた極稀な経験はあり。泣きたくなった。もったいないと思った。でも古酒を旨いと思うから訳が分かりません。)。今回も全部旨かった。もうこれに尽きる。
でもこれでは書く値打ちがない。せっかく貴重な体験をさせていただいたのにもったいない。でも、酒について辛い甘いというのも分からなくなってしまう。一口目に甘いと感じたので、その甘さを確かめようと何杯も重ねるとわけが分からなくなるのです。単に酔うということでもありますが、舌が鈍感になるような、喉が慣れて分析できなくなるような。香りについては最悪で、この脳内にボキャブラリがありません。

最寄のスーパーで買う醸造用アルコール添加の酒は軽くて安定していて、飲みやすいというよさがある。安い。ワンカップの少量でも買える。良い事づくめだ。酒に弱い貧乏なぼくにはぴったり。

でも、純米酒が好き。ぼくは酒に弱い。二杯までかなぁ。一晩に少ししか飲めないと分かるととても貴重な気がして、どうせ飲むなら日本酒らしい酒を飲みたい。そこで、日本酒を他の酒と区別して、いちばん際立った違いを考えると、原料が水と米と米麹という単純なタイプでとらえて、おいしい酒を探して毎晩飲みたい、ということ。ビールを水と大麦とホップだけで作ったものを飲みたいのと同じかな。もちろん第三のビールが嫌いということでは決してない。どうせ飲むなら安くて旨い酒を飲みたい。こういう弱さもある。

ついでに職場の看護師に休肝日を1日か2日作りなさいと云われている。まだできていない。こんな弱さもある。旨い酒に負けている。

さて、ようやく「而今」、
9本用意されているらしい、順番に出てくるのでまだ全体が分からないが、一覧表がテーブルの各席においてある。共通項は三重県産、純米酒の一升瓶。違いは種別、酒米、精米、酒度、酸度、酵母、価格。

種別は純米2本、純米吟醸6本、純米大吟醸1本。
酒米は山田錦、雄町、五百万石、千本錦、八反錦の五種とブレンドの組み合わせ。
精米歩合は純米が60%、純米吟醸が55%〜50%、純米大吟醸が40%。
日本酒度は純米大吟醸が+5、他は+−0〜+1。
酵母は8本が9号、1本だけMK3。
価格は純米の2,730円〜純米大吟醸の8,400円。

これだけのたくさんの酒を頂いて、しかも同じ而今。驚いたのはみんな違う!という事実。どうして?なぜ違う?共通項はやはり全部旨い!

純米大吟醸はどこのどの酒を飲んでも旨い。端麗辛口。味が澄んでいて薫り高い。酒米が山田錦。どの銘柄でも似ている。高価だから残念ながら利き酒だけにして、吟味の対象から外れてしまう。

最初に飲んだ純吟山田錦生はフルーティで上品、これに酸味が立てばワイン。旨い。こういうさわやかで若い新酒風の酒が大好き。
2本目、純吟雄町生は少し酸味が加わり、他の感じが抑えられている。日本酒らしいと感じた。表を見ると酸度が1本目と同じだから訳が分からない。酸味と酸度は同じではないのか。どうして酸味が立っているのに酸度が増えないのか。もう少しボキャブラリがあればこのもどかしさを表現できるのに。ワイン好きにプレゼントなら1本目、日本酒好きなら2本目か。

次は生ではなく火入(以下全部火入だと思う)の純吟MK3と純吟雄町。いちばん際立った香ばしさと旨さ、これが三重県産の麹MK3、こんな酒を大和の地酒で飲んだことがない。いきなり3本目で本日最高の収穫である。買って帰るならこれ、でももちろんここでもどこでも売っていない。人気の而今。ひょっとしたらと酒米を見れば、山田錦と五百万石のブレンドで精米歩合は55%となっている。五百万石がどのようなものか、これの影響もあるだろう。初めての酒米だ。課題が残った。また再会したい酒である。純吟雄町火入は次に同時に飲んだからか際立った味が分からない。少し重く、日本酒らしいしっかりした旨さだ。9本出てから燗酒にしてもらったら最高に旨くなった。うーん。燗酒は飲み比べられないじゃないか。燗をするといろいろな美味しさが強調され、ゆっくり味わえるような飲み方。

純米大吟醸。旨い。

次は純米9号火入と純米千本錦&八反錦。純米9号火入。これは旨い。純吟よりいろいろな味がする。雑味というより「雑美」の味。これは毎日でも飲みたい。あ、五百万石だ!これはこの米の味か?トロリとした舌触り、とろりとした喉越し。しっかりしている。日本酒らしい。旨い、爽やか、でも少し重い。この重さは日本酒の重さ。大和の地酒で八反だけのブレンドではない「純米」酒を元ささやで頂いたことがあるが、びっくりするほど旨かった。その極端な旨さが抑えられている。普通の酒の水準に抑えられている。ああ、日本語がほしい。この旨さの違いを明確に伝えられる味についての日本語を知りたい。この千本&八反も燗していただいたがよけい味が曖昧モコとなった。酒を相手にするのではなく、本を読みながら飲むようなときにこの燗酒はいけるかも知れない。

最後の2本は純吟千本錦と純吟山田錦。千本錦は口に含んだとたん口中に広がる発泡のような八方に広がりがあり、フルーティ。旨い。香りが高い。うーん、みんな旨いから困ってしまう。最後の山田錦の純吟これも旨い。而今の山田錦はすべてライスワイン。旨い。でも、何というか味が少ない。酒米でこれ程味が違うとは、いい勉強になりました。

疑問がわいてきた。水は同じか?これだけ味が違うのは水の効果もあるはず。そのデータがないのは同じということ?日本酒の水は日本中同じ水を使っていると考えたらいいのかな。

開会から1時間で新蕎麦が出された。美味い。連れてくれた先輩がマンボウのご主人と同じ蕎麦の学校に通ったらしい。またできれば参加したい。おおきに。